ESO(ヨーロッパ南天天文台)のVLT(超大型望遠鏡)の6年間にわたる観測データから、天の川銀河の伴銀河である大マゼラン銀河で恒星質量ブラックホールを発見したとする研究成果が、ベルギー・ルーベン大学のTomer Shenar氏(現在はオランダ・アムステルダム大学)らの研究チームによって発表されました。さらにそのブラックホールを生み出した恒星は、爆発の痕跡を残さずに消滅したことも明らかになったとしています。
X線を放出していない連星系でブラックホールを発見
恒星質量ブラックホールは、大質量星が最期に自分の重力で崩壊して形成されます。ブラックホールが連星系をなしていると、伴星のガスがブラックホールへ落ち込んでいく際に、ブラックホールの周囲に降着円盤と呼ばれるガスの円盤が形成されます。
激しく回転する降着円盤では、ガスの温度が高温になりX線を放射します。恒星質量ブラックホールは通常、そのようなX線をとらえることで検出されます。
ブラックホールの中にはX線を放出しない「休眠中」のものも存在します。今回、大マゼラン銀河で発見された恒星質量ブラックホールは、そのような「休眠中」のブラックホールです。
今回発見されたブラックホールは太陽の9倍の質量を持ち、太陽の25倍の質量の高温で青色の恒星と連星系(VFTS 243)を形成し、10.4日で公転しています。
VFTS 243を発見するため研究チームは、ESOのVLTの6年間にわたる観測データを使い、大マゼラン銀河のタランチュラ星雲にある約1000個の大質量星の中でブラックホールを伴星としてもつ可能性のあるものを探しました。
X線を放出しない休眠中のブラックホールを発見するのは困難です。これまでにも同様のブラックホール候補は提案されていますが、研究チームは天の川銀河以外で休眠中の恒星質量ブラックホールが明確に検出されたのは今回が初めてだと主張しています。
恒星質量ブラックホールは、大質量星が超新星爆発を起こした後に残されると見られていますが、近年では超新星爆発を伴わずにブラックホールが形成されるシナリオも考えられています。VFTS 243には爆発の痕跡がみられず、超新星爆発を伴わずに崩壊してブラックホールが形成されたことを示す直接的な証拠の1つだと研究チームは考えています。
Image Credit: ESO/L. Calçada
(参照)ESO