観測史上最も重い中性子星を発見 伴星を「食べて」重くなった「ブラックウィドウパルサー」

天の川銀河で最も早く回転する中性子星の一つである、1秒間に707回転するパルサー「PSR J0952-0607」が、伴星を食い尽くす過程でこれまで観測された中で最も重い中性子星(太陽の2.35倍)に成長したことが明らかになったとする研究が発表されました。

ブラックウィドウパルサーと伴星(右)の想像図。
ブラックウィドウパルサーと伴星(右)の想像図。

中性子星の密度は1立方センチあたり10億トンにもなり、ブラックホールを除けば宇宙で最も高密度の天体です。なかでもPSR J0952-0607は、地球から観測できる範囲では最も高密度の中性子星とのことです。なおパルサーとは中性子星の一種で、高速で回転しながら強い電磁波を放射します。

2017年に発見されたPSR J0952-0607は、ろくぶんぎ座の方向、約3000光年の距離にあります。この中性子星は「ブラックウィドウパルサー」と呼ばれるタイプの天体です。

「ブラックウィドウ」とはクロゴケグモのことで、クロゴケグモのメスは交尾後に体の小さなオスを食べてしまいます。ブラックウィドウパルサーは同様に、連星系をなす小さな伴星を食べ尽くしてしまうのです。

今回の研究の著者であるカリフォルニア大学バークレー校のAlex Filippenko氏とスタンフォード大学のRoger W. Romani氏は、中性子星がどれだけ大きくなれるのかの上限を明らかにするため、10年以上にわたりブラックウィドウパルサーの研究を続けてきました。

「今回の測定値と、ほかのいくつかのブラックウィドウパルサーの測定値を組み合わせることで、中性子星は少なくともこの質量(2.35±0.17太陽質量)に達しなければならないことを我々は示しました」とRomani氏は述べています。「これは、原子核の数倍の密度をもつ物質の性質に強い制約を与えます」

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伴星を「食べる」ことで回転が速くなる

ふつうのパルサーの回転速度(平均して1秒間に1回転程度)は、崩壊前の星の回転から説明できます。一方、1秒間に数百以上も回転する「ミリ秒パルサー」と呼ばれるものもあります。このような高速回転は、中性子星に物質が落下してきて回転を加速させないと説明が困難だとみられています。

しかしミリ秒パルサーの中には伴星が見つからないものもあります。そのような単独で存在するミリ秒パルサーは、かつて伴星が存在したにもかかわらずパルサーに食い尽くされた可能性があります。

Filippenko氏によれば、ミリ秒パルサーの進化は次のように進行します。「伴星が進化して赤色巨星になり始めると、伴星のガスが中性子星に落下し、中性子星を回転させます。回転がつくことで非常に大きなエネルギーが与えられ、中性子星から高エネルギー粒子の風が吹き始めます。その後、その風が伴星に当たり、伴星のガスを剥ぎ取るようになります。時間が経過すると伴星の質量は惑星程度にまで減少し、やがて完全に消滅します」

単独で存在するミリ秒パルサーは、もともと単独だったわけではなく、連星系をなしていた伴星を食い尽くすことで単独になったというわけです。

小さな伴星を発見することは、中性子星の質量を測定するための数少ない方法の1つです。PSR J0952-0607の質量の質量は、ハワイ、マウナケア山頂にあるケックI望遠鏡により、伴星からの可視光のスペクトルを検出することで測定されました。

PSR J0952-0607では、木星の20倍ほどの質量しかない伴星が中性子星の重力によって変形し、また潮汐ロックがかかり常に同じ面を中性子星に向けています。中性子星を向いた面の温度は6200Kに達しており太陽よりも明るく、大望遠鏡であれば十分に検出可能な明るさです。Filippenko氏とRomani氏は伴星をとらえて軌道速度を推定し、中性子星の質量を計算しました。

Filippenko氏とRomani氏は、これまで10を超えるブラックウィドウパルサーを調べましたが、質量を計算できるほど明るい伴星をもつものは6個だけでした。それらはいずれもPSR J0952-0607より質量の小さな中性子星でした。彼らは、伴星の質量が太陽の10分の1〜100分の1程度のものも含め、さらに多くのブラックウィドウパルサーを研究したいと考えているとのことです。

Image Credit: NASA's Goddard Space Flight Center

(参照)UC Berkeley