この画像には、「クモの巣銀河」と呼ばれる銀河(正式には「MRC 1138-262」として知られています)の周辺にある原始銀河団が映っています。アルマ望遠鏡の観測により、まだ形成中のこの銀河団で高温の銀河団ガス(青)が発見されました(背景はハッブル宇宙望遠鏡が撮影した画像)。
数百〜数千個の銀河からなる銀河団には、銀河以外にも大量の高温ガスが存在しています。ただその銀河団ガスの形成の最初期の段階の観測はあまり行われていません。画像に映るクモの巣原始銀河団は、宇宙誕生から30億年しか経っていない時代の原始銀河団です。
宇宙背景放射の「影」を利用して高温ガスの存在を推定
イタリア、トリエステ大学のLuca Di Mascolo氏らの研究チームは、「スニヤエフ-ゼルドビッチ効果(SZ効果)」を利用して、クモの巣原始銀河団の銀河団ガスを検出しました。SZ効果は、ビッグバンの名残の光である宇宙マイクロ波背景放射からの光が銀河団ガスを通過するときに発生します。宇宙背景放射は、高温ガスの中で高速で運動する電子と相互作用することでエネルギーを得て、波長がわずかに変化します。「SZ効果は、宇宙マイクロ波背景放射に対して影として現れる」とDi Mascolo氏は言います。この「影」を測定することで高温ガスの存在を推定、また質量を推定して形状をマッピングすることができます。
観測の結果、クモの巣原始銀河団では、膨大な量の数千万度Cの高温ガスが存在していることがわかりました。ここでは以前、低温ガスが検出されていましたが、今回見つかった高温ガスの質量は低温ガスを何千倍も上回っています。今回の結果は、クモの巣原始銀河団が100億年ほどで少なくとも10倍以上の質量をもつ巨大銀河団になると予想されることを示しているとのことです。
Image Credit: ESO/Di Mascolo et al.; HST: H. Ford
(参照)ESO