宇宙には、たとえば超新星のような短時間で急に明るくなる天体(突発天体)が存在します。今回、すばる望遠鏡を使った観測により、通常の超新星より10倍から100倍ほどの明るさで輝く超高輝度超新星と同じ程度の明るさをもちつつ、より急速に増光する突発天体が発見されました。このような天体が発生直後に発見されたのは初めてのことです。
この天体は、「MUltiband Subaru Survey for Early-phase Supernovae(MUSSES)」プロジェクトの観測によって発見されました。MUSSESは、Kavli IPMUの姜継安さん(現在は国立天文台)が率いる国際的な突発天体サーベイプロジェクトで、すばる望遠鏡のHSC(ハイパー・シュプリームカム)を用いて、さまざまな突発天体の発生直後のようすをとらえることを目的としています。
MUSSESで2020年12月に行われた観測では、急速に増光する突発天体が20個発見されました。そのうちの1つ「MUSSES2020J」は増光する前の段階で発見され、観測中に急速に明るくなっていったのです。のちに行われた追跡観測により、通常の超新星の約50倍の明るさだったことが分かりました。研究チームは、MUSSES2020Jのような突発天体を「Fast Blue Ultraluminous Transient(FBUT)」と呼ぶことを提唱しています。
こちらのグラフは、MUSSES2020Jとその他の突発天体現象の光度曲線(天体の明るさの時間変化)を比較したものです。他の天体現象と比べてMUSSES2020Jが急速に明るくなっていることがわかります。右下はMUSSES2020Jが観測された銀河(中央)。
FBUTは急速に増光するため発生直後の観測は難しく、発見例は多くありません。姜さんは「初期の光度曲線の情報は、この突発天体の起源を理解する上で、ユニークな情報をもたらすはず」と語っています。
FBUTの起源は?
FBUT天体の起源について、研究チームの1人、京都大学の前田啓一准教授は「FBUT天体の起源として非常に活動的なコンパクト天体が潜んでいることはほぼ疑いようがなく、これがFBUT天体が通常の超新星と非常に異なる理由であると考えられます。可能性としては、大質量星ブラックホールの潮汐力により恒星が破壊される現象や、大質量星の崩壊に伴いブラックホールや強磁場中性子星が形成される現象などが考えられます」と述べています。
このイラストは、FBUT天体の起源として考えられている天体現象を描いたものです。
イラストの上はブラックホールの潮汐力により恒星が破壊される現象です。下の左は「マグネター」と呼ばれる非常に強い磁場を持つ中性子星の2つのジェットのエネルギーによって輝く超新星です。下の右は、脈動型電子対生成超新星(PPISN)の放出物質(緑)が、爆発前に形成された星周物質(紫)と衝突することによって明るく輝いています。
(参照)Kavli IPMU、すばる望遠鏡