この画像は、「うさぎ座R星」をアルマ望遠鏡の最高解像度でとらえたものです。うさぎ座R星は地球から約1535光年の距離にある恒星進化の末期にある星です。
画像は5ミリ秒角の解像度で撮像されています。これは4km離れたところから髪の毛1本を判別できるほどの解像度です。オレンジ色は星の表面、青は恒星から宇宙空間に逃げ出すガスを示しています。
観測誤差を補正する新たな手法で最高解像度を実現
アルマ望遠鏡は66台の電波望遠鏡を組み合わせて観測を行います。画像の解像度は、観測する電磁波の周波数と、アンテナどうしの間の最大距離(最長基線長)の組み合わせでほぼ決まります。周波数が高いほど、また最長基線長が長いほど、解像度は高くなります。
アルマ望遠鏡では、電波望遠鏡どうしの距離を最大で約16km離すことができます。また観測周波数帯はバンド10受信機の787〜950ギガヘルツが最も高くなります。ただ、その組み合わせでの観測は、気象条件や、大気の揺らぎによる観測誤差の補正が非常に難しく、新しい観測技術を取り入れる必要がありました。
大気の状態は時々刻々変化します。そのことに起因する観測誤差を取り除くため、アルマ望遠鏡では目標天体と、その近くにある別の天体(較正天体)を交互に観測し、較正天体の観測量をもとに目標天体の観測誤差を補正します。しかしバンド10での周波数帯や、望遠鏡間の距離が長くなると、その補正が難しかったのです。
そこでアルマ望遠鏡の最適化・性能拡張チームは、較正天体は低い周波数帯の受信機で観測し、高い周波数帯で観測した目標天体の観測誤差を補正する手法を導入することで、アルマ望遠鏡での最高解像度を実現しました。
「バンド・トゥ・バンド観測誤差補正法(B2B法)」と呼ばれるこの手法は、もともと1990年代に日本の国立天文台野辺山宇宙電波観測所で開発をスタートしたもので、アルマ望遠鏡にもハードウェアと基本的なソフトウェアは実装されていました。チームは、目標天体と較正天体の観測を素早く切り替えるなどさまざまな最適化を行いつつ、B2B法のアルマ望遠鏡への応用試験を繰り返してきました。そして今回、バンド10受信機と最長基線長16kmを組み合わせた技術実証試験で、5ミリ秒角の解像度でうさぎ座R星を観測することに成功したのです。
今後は、寿命を迎えつつある恒星のほかにも、惑星系の誕生の現場である原始惑星系円盤の高解像度観測が期待されています。
Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Y. Asaki et al.