月がどうやって形成されたのかについては、40数億年前、原始地球に「テイア」とよばれる火星ほどの大きさの原始惑星が衝突し、その破片から月ができたとする「ジャイアントインパクト説(巨大衝突説)」が有力視されています。このたび、地球のマントル下部に存在する、大陸ほどのサイズの2つの塊が、テイアの残骸ではないかとする説が発表されました。
マントル下部にある塊は1980年代に発見されました。1つはアフリカ大陸の下、もう1つは太平洋の下にあります。これらの塊は「LLVP(large low-velocity provinces、巨大低速度領域)」と呼ばれています。LLVPは、周囲のマントルとは組成が異なる可能性が高いことがわかっています。
月の形成に関するジャイアントインパクト説は有力視されているものの、テイアの痕跡はこれまで小惑星帯や隕石からは見つかっていません。アメリカ、アリゾナ州立大学などの研究チームによる新たな研究は、テイアの大部分が原始地球に吸収されてLLVPを形成し、残った破片から月が形成されたことを示唆しています。
研究チームは、テイアの化学組成や地球への衝突について、さまざまなシナリオをモデル化し、シミュレーションによって巨大衝突がLLVPと月の両者を形成した可能性を導き出しました。
シミュレーションによると、テイアの衝突によるエネルギーが届かずにマントル下部が完全には融解しなかったため、テイア由来の鉄が豊富な塊がマントル下部でそのまま残りました。もし衝突のエネルギーが届いてマントル下部がより高温になっていたら、テイア由来の物質も混ざり合ってしまったとみられています。
Image Credit: Hernan Canellas/image courtesy of ASU