銀河中心のブラックホールには、超高温のプラズマからなる「コロナ」があり、明るいX線を発生させています。上のイラストでブラックホールの上に見える白い光の玉がブラックホール・コロナです。コロナからのX線は、降着円盤からブラックホールに落下するガスの量によって変化します。ガスが多いと明るくなり、少ないと暗くなります。
2018年、「1ES 1927+654」という銀河のブラックホール・コロナからのX線が、約40日間で1万分の1まで暗くなりました。しかしその後明るさが戻り、約100日後には暗くなる前の約20倍の明るさになりました。
1ES 1927+654からX線が失われたのは、まわりの降着円盤からのガスの供給が途絶えたことを意味している可能性があります。Astrophysical Journal Lettersに掲載された論文の主著者であるClaudio Ricci氏らは、逃走星がブラックホールに接近しすぎたために潮汐破壊によって引き裂かれ、その破片が円盤のガスの一部を散逸させたのではないかとする仮説を考えています。なお逃走星とは、超新星爆発や他の星との接近などによって、元いた場所から飛び出してしまった星のことです。
このイラストは、星の破片が衝突したことで降着円盤の一部が散逸し、コロナが消失したようすを描いたものです。
X線が消える数か月前には、1ES 1927+654が可視光でかなり明るくなっているのが観測されたことも、仮説を支持しています。星の破片が降着円盤に衝突したことで明るくなったとみているのです。ただその一方で、逃走星以外でも説明できる可能性があるとRicci氏らは指摘しています。
Image credit: NASA/JPL-Caltech