大阪大学大学院の住貴宏氏や越本直季氏らを含む「MOA(Microlensing Observations in Astrophysics)」という研究グループによって、恒星のまわりを回っておらず天の川銀河内を漂う浮遊惑星(自由浮遊惑星)の候補天体が新たに6個発見されました。そのうち1個は、これまでで2例目の発見となる地球質量程度の天体でした。
MOAは日本やニュージーランド、アメリカの研究者からなる共同研究グループです。今回の研究は、ニュージーランドでの9年間にわたる観測によって実現しました。
重力マイクロレンズを利用して発見
これまで5300個以上の太陽系外惑星が発見されていますが、それらの多くは主星である恒星の明るさの変化や恒星のふらつきをとらえるなど、惑星による間接的な影響を観測することで検出されてきました。しかし主星を回っていない浮遊惑星ではそれらの方法は使えません。また惑星自体は光っていないので、直接撮影して検出することもできません。
そこで研究グループは、「重力マイクロレンズ法」によって浮遊惑星を探しました。遠方にある星の手前を別の天体が通り過ぎると、手前の天体(レンズ天体)の重力によって周囲の空間がわずかに歪み、レンズのような働きをして遠方の星が一時的に明るくなります。この現象が「重力マイクロレンズ」です。明るくなる期間はレンズ天体が軽いほど短く、増光が0.5日間以下の場合、惑星質量である可能性が高くなります。
今回の研究では、2006年から2014年に観測したデータを解析し、増光が0.5日以下の浮遊惑星候補を6個発見しました。そのうちの1個(MOA-9y-5919)は増光期間が0.06日と短く、地球質量程度とみられています。
浮遊惑星の質量分布などを世界ではじめて求めた
今回の研究では、浮遊惑星の存在量と質量分布が世界ではじめて求められました。それによると、浮遊惑星は軽いものほど多く存在し、星1個に対して浮遊惑星は20個程度存在することがわかりました。天の川銀河には2000億個の恒星があると考えられており、浮遊惑星は1兆個以上存在すると見積もられるとのことです。
また地球の10倍以上の質量の惑星では、主星をまわるもののほうが多い一方、それ以下の比較的軽い惑星では浮遊惑星のほうが多いこともわかりました。主星のまわりで形成された惑星のうち、地球のような軽い惑星のほうが弾き飛ばされて浮遊惑星になりやすいと考えられます。
今後の地上観測と期待されるローマン宇宙望遠鏡
2022年、住氏らの研究グループにより南アフリカに1.8mPRIME望遠鏡が新たに建設されました。PRIME(Prime-focus Infrared Microlensing Experiment)望遠鏡では近赤外線で観測することで、従来の可視光による観測より多くのマイクロレンズ事象をとらえます。それにより多くの浮遊惑星候補を発見できると考えられています。
またNASA(アメリカ航空宇宙局)は、2027年5月までにナンシー・グレース・ローマン宇宙望遠鏡の打ち上げを予定しています。ローマン望遠鏡は、宇宙から重力マイクロレンズ探査を行います。
従来の推定では、ローマン望遠鏡は地球質量程度の浮遊惑星を最大50個ほど発見するだろうと示唆されていました。今回の研究からは、ローマン望遠鏡がそのような浮遊惑星を400個ほど発見する可能性があると予想されました(浮遊惑星全体では1000個ほど)。ローマン望遠鏡により、浮遊惑星の質量分布や存在量がより正確に明らかになり、主星を回るものも含め系外惑星全体の形成過程と進化の解明にもつながると期待されています。