銀河形成理論に再考を迫る!? 129億年前の宇宙で回転する小さな銀河を発見!

138億年前に誕生した宇宙に小さな銀河ができ始めたのは、宇宙誕生から数億年後だと考えられています。これまで宇宙誕生から10数億年後の銀河は観測されていました。ただそれらの銀河は大きく明るい銀河が主で、より暗くて数の多い一般的な銀河の姿はよく分かっていませんでした。今回、銀河団の重力レンズを利用することで、アルマ望遠鏡によって宇宙初期の暗く小さな銀河が見つかり、その内部構造が描き出されました。

銀河団などの重力によって遠方にある天体からやってくる光が曲がる現象を「重力レンズ」と呼びます。重力レンズによって天体の像が歪んだり増光したり、複数の像に見えたりすることがあります。重力レンズで拡大された宇宙初期の暗い銀河を研究するため、アルマ望遠鏡を使った大規模な観測計画ALCS(ALMA Lensing Cluster Survey)が実行され、重力レンズを引き起こす33の銀河団の中心領域が観測されました。

画像に映っているのは、そのような銀河団の一つで、うさぎ座の方向にある「RXCJ0600-2007」と呼ばれる銀河団です。ハッブル宇宙望遠鏡が撮影したRXCJ0600-2007の画像に、アルマ望遠鏡がとらえた「RXCJ0600-z6」と名付けられた銀河の重力レンズ像(赤色)が合成されています。

太陽の1000兆倍の質量を持つ銀河団の重力レンズ効果により、RXCJ0600-z6の像は増光・拡大され、また3つに分かれて見えています。アルマ望遠鏡は銀河が放つ塵および炭素イオンの光をとらえました。ジェミニ望遠鏡の観測データとあわせることで、その光が129億年前に銀河から発せられたものであることが判明しました。

研究チームがRXCJ0600-z6の元の姿を復元したところ、銀河の総質量が太陽の20億〜30億倍程度であることが分かりました。これは天の川銀河の100分の1ほどの小さなサイズです。またRXCJ0600-z6が回転していることも明らかになりました。

整然と回転する成熟した現在の渦巻銀河とは異なり、初期の銀河に含まれるガスはランダムな動きをしているとこれまで考えられてきました。最近、アルマ望遠鏡によって回転する初期の銀河が発見されていましたが、それらはRXCJ0600-z6より数桁も明るい(大きい)銀河でした。今回の発見は、初期宇宙に普遍的に存在していた小さな銀河が回転していたことを示しており、銀河形成理論に再考を迫る重要な結果といえるとのことです。

この銀河は、2021年秋に打ち上げ予定のジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)で観測されることが決まっています。デンマークにあるニールス・ボーア研究所の藤本征史氏によれば、アルマ望遠鏡とJWSTを組み合わせた観測により、星とそれをとりまく多層的な銀河の構造と運動のようすを解き明かしていく予定とのことです。

Image Credit: ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), Fujimoto et al., NASA/ESA Hubble Space Telescope

(参照)アルマ望遠鏡