偶然発見された褐色矮星「アクシデント」は100億年以上前に形成された天体か?

Image Credit: NASA/JPL-Caltech
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褐色矮星は恒星と巨大惑星の中間のような天体です。質量は木星の13〜80倍ほどで、質量が小さいために恒星のように中心部で水素の核融合反応が起こりません。

カリフォルニア工科大学IPAC(赤外線画像処理・解析センター)のDavy Kirkpatrick氏らは、新たに発見された「WISEA J153429.75-104303.3」という褐色矮星の分析から、褐色矮星はこれまで考えられていたよりも多く銀河系内に存在している可能性があるとする研究を発表しました。「WISEA J153429.75-104303.3」は、たまたま運良く発見されたことから、研究チームではこの褐色矮星のことを「アクシデント」と呼んでいます。

Image Credit: NASA/JPL-Caltech/Dan Caselden
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この画像はNASA(アメリカ航空宇宙局)のNEOWISEが撮影したもので、円内にかすかに見えているのが「アクシデント」です。

褐色矮星は時間とともに冷えていき、波長ごとの光の明るさが変化します。「アクシデント」は、ある波長では暗くてひじょうに冷たい(古い)ことを示していましたが、別のある波長では明るく温度が高いことを示しており、科学者を混乱させていました。

新たな研究では、「アクシデント」は100億〜130億年前に形成された天体である可能性があるとしています。これはこれまでに知られている褐色矮星の年齢の中央値の少なくとも2倍に相当します。そしてそれは、銀河系がはるかに若く、現在とは異なる化学組成をもっていたころに形成されたことを意味しています。

約136億年前に形成された銀河系は当時、ほとんどが水素とヘリウムで構成されていました。炭素など他の元素は恒星内部で作られ、超新星爆発などによって銀河系内に拡散されていきました。

「アクシデント」と似た温度の褐色矮星では、水素と炭素からなるメタンがよく見られます。メタンは特定の波長の光を吸収するため、メタンを含む褐色矮星はその波長の光が暗くなります。しかし「アクシデント」はその波長の光が明るいのです。これはメタンが少ないことを示していると見られています。つまり「アクシデント」のスペクトルは、まだ炭素が少ない時代に形成された非常に古い褐色矮星と一致する可能性があるのです。形成時に炭素が少ないことは、現在の大気中のメタンが少ないことを意味します。

「このような古い褐色矮星が存在することは予想されていましたが、非常に稀な存在だろうと見られていました。太陽系の近くで発見されたことは幸運な偶然なのか、あるいは我々が思っているよりも一般的であることを物語っているでしょう」と、研究チームの一人、IPACのFederico Marocco氏は語っています。「アクシデント」のような古代の褐色矮星が、太陽系の近隣にたくさん潜んでいる可能性があるというのです。

「アクシデント」を発見したのは、市民科学者のDan Caselden氏です。Caselden氏は、自身で作成したオンラインプログラムを使い、NEOWISEのデータから褐色矮星を探していました。赤外線を放射する天体のうち、地球から遠く離れているものは空に固定されているように見えます。しかし褐色矮星は暗いので、比較的地球に近いものしか見えません。そのため褐色矮星の場合、数か月から数年かけて空を移動していくようすを観測できます。

Caselden氏のプログラムは、遠方の星など動かない赤外線天体をNEOWISEの地図から取り除き、既知の褐色矮星に似た特性を持つ移動する天体を目立たせようとするものでした。Caselden氏が褐色矮星の候補天体の一つを見ていたところ、画面上を素早く移動する非常に暗い天体を発見しました。それは、プログラムのプロファイルに合致しなかったため取り上げられていなかった「WISEA J153429.75-104303.3」でした。「アクシデント」の発見は、偶然の産物だったのです。

「今回の発見は、褐色矮星の組成が、これまで見てきたものより多様であることを示しています」とKirkpatrick氏。「宇宙にはより風変わりなものもいるでしょう。それらをどのように探すのかを考える必要があります」

(参照)JPL